【コラム】医学英語のススメ<第1回:はじめに・スピーキング>

《著者》
安川 康介 氏
ホスピタリスト・南フロリダ大学助教
はじめに
みなさん初めまして、米国で総合内科医として働いている安川康介と申します。
「国籍・文化を問わず多様な患者さんを診療できる医者になりたい」
「教育システムが確立している米国で内科と感染症のトレーニングを受けたい」
そう思い、私は医学部の5年生頃から米国への臨床留学を真剣に考えるようになりました。
医学部6年生の夏休みに1ヵ月間ニューヨークの病院で実習を行い、日本の国家試験の直後にUSMLE Step 1を取得、初期研修中にUSMLE Step 2(Clinical SkillsとClinical Knowledge)を受験し、米国のレジデンシーに応募しました。50個のプログラムに応募し、7つのプログラムの面接を受け、第1希望であったミネソタ大学にマッチし、初期研修修了直後の2009年に渡米しました。米国で働き始めてから早くも15年になります。
この連載では、医学英語に興味のある医学生の方や研修医の方に向けて、「医学英語」の勉強法について書きたいと思います。医学英語は、私の医師としてのキャリアを支えてきた最も大切な知識・スキルの一つです。
医学英語が役に立つのは、私のように海外で臨床する場合だけではありません。日本でも日本語が上手く話せない患者さんがたくさんがいて、そうした方の診療をする際に英語が必要になることがあります。私も研修医として日本で働いていた時に、英語で診療しなければならない機会が何度もありました。例えば、韓国から旅行に来ていたある方が胆道炎になり、私の働いていた施設に入院しERCPを受けなければなりませんでした。英語で診療し、帰国後に韓国の医師へ情報が伝わるように英語のサマリーをお渡ししたことを覚えています。また、医学生の時は、日本語の教科書がたくさんあり、医学英語を勉強しなくても国家試験を合格し医師になることはできますが、医師として働き出すと最新の医学知識は主に英語で書かれた論文から得なければなりません。論文の執筆や、国際学会での発表は英語で行うことになります。どのようなキャリアを目指す人にとっても医学英語は大切です。
医学英語は、一朝一夕では身に付かないため、何年も継続して計画的に勉強する必要があります。スピーキング、リスニング、リーディング、ライティングに分けて、個人的な経験とアドバイスについて書いていきます。
スピーキング
まずは医学英語のスピーキング、主に医療会話について触れます。
よく臨床留学を目指す方から「アメリカで働きたいけど、英会話ができないから自信がありません」と相談されることがあります。そんな方にいつもお伝えしているのは「病院の日常診療で使う英会話の表現は限定的なので、あまり心配はいらない」、ということです。文化的な知識なども身につけて、患者さんと幅広い会話をできるようになることが理想ですが、私の経験から言えば、診療で必要最低限な英単語・文章はそれほど多くはありません。英語で診療できるようになりたいという方は、とにかく患者さんを診療するための質問や言い回しをそのまま覚えてしまうことが近道だと思います。そのために役に立つのがUSMLE Clinical Skillsの教科書です。USMLE Step 2 Clinical Skills(CS)の実技試験は、新型コロナウイルスの流行によって2020年に中断され、2021年に廃止となりましたが、私の場合CSのために学んだ英語は、渡米して15年経った今でもとても役に立っています。
First Aid for the USMLE Step 2 CS, 6th ed. – Clinical Skills
著者: T.Le, V.Bhushan, K.Lee, et al.
出版社: MCGRAW-HILL EDUCATION
ISBN: 978-1-259-86244-1
英語で診療できるようになりたい方や臨床留学を目指している方は、First Aid for the USMLE Step 2 CSに掲載されている言い回しを、そのまま覚えて、何度も練習するのが良いと思います。
First Aid以外にも「Kaplan USMLE Step 2 CS Complex Cases」の本も役に立った記憶があります。
ミネソタ、テキサス、ロードアイランド、ワシントンD.C. 、フロリダ…米国の様々な州で医学生やレジデントと働いてきましたが、診療する時に使う英語表現は大体決まっています。ほんの数例ですが、例えば以下のようなものです。
- なぜ来院したかを聞く質問:「What brought you to the hospital today?」
- 家族歴を聞く質問:「Does anything run in your family?」
- 痛みの程度を聞く質問:「How would you rate your pain on a scale of 0 to 10, with 0 being no pain and 10 being the worst pain you’ve ever experienced?」
Clinical Skillsの教科書には、患者さんへの診療に関する説明を、専門用語を使わずにどのようにすれば良いのかも書かれているので、そうした表現も一緒に覚えていきます。
私がUSMLEの実技試験を受けたのは研修医2年目だったので、仕事が終わってから一人でぶつぶつ言い回しをひたすら練習したり、同期の研修医にお願いして練習相手になってもらったりしました。主訴が腹痛の場合、胸痛の場合、めまいの場合など、シチュエーションを色々と変えて、自分が一通り問診や検査の説明ができるようになるまで練習してみてください。
また、日本で練習をするだけでなく、医学生の方であれば、ぜひ学生時代に米国の病院で実際に実習することをお勧めします。私も医学部6年生の時の夏休みに、大学のプログラムを利用して、1ヵ月間ニューヨークの病院で臨床実習を行いました。医学英語を学べるだけでなく、本当に自分は渡米したいのか考える良い材料にもなりますし、実際に臨床留学を目指す場合は推薦状をもらえたりするので応募に有利になるはずです。
スピーキングに関して、内容だけでなくやはり「発音」の練習も大切です。ネイティブのような発音で話す必要は全くありませんが、ある程度患者さんや同僚にとって聞き取りやすい発音になるように練習しておいた方が良いと思います。あまり気が進まないかもしれませんが、自分の英語を録音して、何度か聴いてみてください。例えば、International Dialects of English Archiveというウェブサイトにある「Comma Gets a Cure」という文章を読み上げて録音して、自分で聴いたり、ネイティブの人に聴いてもらったりして、自分にとってどのような単語が発音しにくいのか確認してみましょう。
発音に関しては、ELSA Speakなど発音を改善するためのアプリもありますが、会話の練習も兼ねてネイティブの方からレッスン(オンラインでも対人でも)を受けることをお勧めします。「English pronunciation」「Accent reduction」などと検索をすればオンラインで指導をしてくれる教師が簡単に見つかるはずです。発音を学ぶことは、この後のリスニング力を高める効果もあります。
この記事の著者

安川 康介 氏
ホスピタリスト・南フロリダ大学助教
2007年慶應義塾大学医学部卒業。 日本赤十字社医療センターにて初期研修を修了後渡米。ミネソタ州ミネソタ大学医学部内科レジデンシー、テキサス州ベイラー医科大学感染症フェローシップ修了。米国内科専門医・感染症専門医。